大人の恋は、静けさの中にある
若い頃の恋は、いつも波立っていました。
どうしてあんなに一生懸命だったのでしょう?
会いたくて、会えなくて、泣いた夜もありました。
でも今は、心が静かでいられる恋を選びたい。
年齢を重ねた今だからこそ見える「穏やかな愛」がある気がします。
東京と大阪の遠距離恋愛。
京都で月に一度会うのが、何よりの楽しみでした。
待ち合わせの駅に向かう足取りの軽さ、
手を振る瞬間の高鳴り。
別れ際のホームで何度も振り返っては、涙をこらえたあの頃。
会えない時間が長いほど想いは募って、その恋こそがすべてのように思っていました。
大阪に戻る新幹線の中で、品川駅を通るたび「ここで降りたい」と思ったものです。
でも降りられないまま、車窓の灯りを見送るしかなかった。
あの揺れる車内の孤独も、恋の一部だったんだと思います。
今思えば、あの頃の私はいつも不安でした。
「次はいつ会えるんだろう」
「私のこと、まだ好きでいてくれるかな」
好きな人の言葉ひとつで舞い上がり、少しの沈黙で勝手に傷ついて。
“好き”の奥には、“失うのが怖い”という影が潜んでいたのかもしれません。
今は、恋ってそんなに苦しくなくていいとわかりました。
本当に心を満たす恋は、静かであたたかいもの。
沈黙が怖くない人、無理に話さなくても空気がやわらかい人。
そんな存在が、いちばん安心する。
恋は、燃えるより灯り続けるほうが難しい。
けれど、その小さな灯が心の奥にともっているだけで、
日々の暮らしがふっと優しくなります。
“心が静かになる恋”を選ぶことは、何かを諦めることではありません。
むしろ、自分を大切にできる恋に出会えた証。
60歳を過ぎたいま、ようやくそう思えるようになりました。
